大島優子「なーにやってんの?」
不意に話しかけられて驚き振り返ると、浴衣姿の大島がいた。
白地にピンクの花柄の浴衣で、元気で無邪気な大島にはピッタリでよく似合っている。
カストリ「休憩もらったから、花火でも見ようかと思って…」
大島優子「ふーん、じゃぁ、お隣いいですか?」
毎年夏祭りのシーズンは自治会の手伝いで屋台をしている。面倒だが、特にやることのない夏休みでお小遣いも貰えるから悪くはない。こうして関係者以外は入れない特等席で花火を見れるのも実は楽しみにしていた。
隣に並ぶ。花火が上がる河川敷の方を二人で眺める。
沈黙に耐えられず思わず声を出した。
カストリ「ていうか、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
大島優子「まぁ、いいじゃん!カスがいたからさ、思わず!」
カストリ「なんだよそれ」
うまく会話ができない。いつもの制服の姿に慣れているからか、浴衣で別人みたいに感じる。だが、いつもの大島だ。
あっけらかんとしていて、まるで俺の気持ちなんて知らないように。
大島優子「そろそろだね!」
河川敷を眺めて待ち遠しくしている表情はいつもの大島で、えくぼがくっきりと浮かび上がっている。
今かもしれない。
思いを伝えるのは今なのかもしれない。
大島はどう思うだろうか、いや、そんな事は今気にしてもしょうがない。今、思いを伝えるんだ。
カストリ「大島。俺、お前のことーーー」
瞬間、花火が上がった。
大きい音と共に辺りが青白く照らされる。川には空で輝いている花火が反射していた。
振り向く大島。その目には俺が映っていた。
大島優子「聞こえなかった。もう一回言って」
その笑顔には確かにえくぼが浮かんでいた。
『夏っていいよなぁ』