カス鳥のブログ

日記とオモシロ記事を書いています。

[無理由]深夜、国道にて

 

靄がかかっている。前方を照らすライトは無闇に散り、心許ない。

脳味噌の紐が複雑に絡まり、考えのまとまらない時、俺は何か乗り物に跨り闇雲に走るようにしている。特に拘りはないが、速ければ速い物のほうが良い。更に挙げるとすれば、風を強く感じるものが良い。今乗っているSR400は、つまり都合のいい乗り物だ。

風の抵抗を強く感じると、自分から何かが引き剥がされるような感覚になる。黒い粘り気のあるその何かは自分よりも軽く、スピードを上げれば上げるほど、繋がりが途切れ背後に放り出されていく。そいつから逃げ切る為に俺はバイクに跨る。

クラッチを握り、ペダルをやや乱暴に上げる。タコメーターを視界の隅で確認し回転数を確かめる。スピードメーターには目を向けない。スロットルを巻き上げ、加速していく。徐々に、単気筒の単調な叩くような音が連なり、一つのまとまった音として耳に届くようになる。それは、激しい音だが眠りに誘う音楽のようにも聞こえてくる。視界が狭くなり、漠然と意識していた景色が見えなくなってくる。目の前の道路の轍、中央線、落ちている軍手、視界で捉えることができる物が少なくなることで、それらの輪郭がはっきりとし目に飛び込んでくる。今ここには幸福も不幸もない。

この瞬間に死んでしまえば、それは俺にとっては幸福なのかもしれない。そこには悪意も善意も、平等も不平等もない。ただ、突然終わるだけだ。

致死的なスピード、少しでもハンドル操作を誤れば、たちまち幸福な死へと飛び込んでいくこととなる。しかし、わざとそうする勇気も無ければ、そこまで臆病でもない。

偶然の死、それは不意に降ろされた蜘蛛の糸、自分の意識とは関係無く絡め取って引き上げる。その後にはもう誰もいない。勿論、周りの人にとっては不幸であるかもしれないが、幸い俺の周りには数える程度しかいない。それは幸福なことだ。

クラッチを握り、スロットルを閉じると同時にペダルを踏む、回転数を合わせながら静かに停止する。再び単調なリズムがマフラーから流れ始める。

視界が広がり意識が周りのものを認識し始めると、引き剥がした筈の黒い粘り気のある何かがまた迫り、俺の肩に、腰に、腕に、手を回し俺の中に染み込んでくる。

ペダルを踏み込みクラッチを握ったまま、3度スロットルを回し吹かす。

1度目は黒い何かに、2度目は自分自身に、3度目は糸を垂らす何かに。それは決意にも、祈りのようにも聞こえる。

 

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