中条あやみ「ねぇ、決まった?進路ぉ〜」
後ろの席の中条が話しかけてきた。
放課後に、まだ進路の決まっていない俺と中条は二人で居残りをさせられていた。書いた人から職員室に持ってくるよう担任から言われている。
カストリ「いやぁーまだ決まんねー。つーか、高校生の分際でこの先何十年の先を決めろって言われても困るつーか、なんつーか。そう言うお前は決まったのかよ」
中条あやみ「いやー決まんないー。でもカスの言うことめっちゃ分かるかも!!」
意外だった。中条はバトミントン部のキャプテンで成績も優秀、クラスの中だって目立つ存在。進路なんてとっくに決まっていて、そのままいい大学に入って、そのまま就職して、そのまま…。クラスで目立つ方ではない俺とはかけ離れていて、進路の悩みなんて無いかのように映っていた。
中条あやみ「カスって意外と悩みとかあるんだね、そんな風に見えなかった。普通に大学行って、普通に就職して、普通に可愛良い奥さんと家庭持ってる気がしてた」
カストリ「なんだよそれ。どんな風に思ってたんだよ俺を」
正直あまり話したことのない中条に、そんなことを言われるとは思ってもいなかった。
驚き振り返ると、中条と真っ直ぐに目があった。
中条あやみ「普通っていうか。平凡っていうか。つまんなそーって」
カストリ「それ悪口か?そんなに言うならお望み通り普通の大学行ってやるよ」
何の悪気もない様子でそう言い切る中条に、少し呆れながらもなぜか少しがっくりとした。
プリントに向き直り、俺の今の偏差値で問題なく受かるであろう大学を書き殴る。
中条あやみ「ごめんって!悪口じゃないって。」
カストリ「別に気にしてねーよ。俺は書けたからお先な、お前もがんばれよ」
後ろを振り返って言ったが中条がいない。
いつの間にか俺の席の隣に来て、プリントを取り上げていた。
中条あやみ「ふーん。この大学ねー。じゃ、私もここにしよっかな」
カストリ「おい!ちょっと返せって!」
プリントを取り返そうと手を伸ばすが、中条はひらひらと頭上に持っていき揶揄う。
こんなに背高かったけ?まじまじと見たことはなかったが、すらっとした身長に、ブラウスと同じぐらい白い肌、肩まで伸びた黒い髪。人気者だけあって綺麗だなと素直に思う反面、この状況に少し動揺してしまう。
俺も席を立ち、頭上のプリントを取り返す。
瞬間、おっぱいに少し手が触れてしまった、中条の方を見る。
中条あやみ「じゃ、私進路決まったから!お先!」
どうやら気にしていない?気づいていない?まぁよかった。
中条はサッサと廊下に向かった。
カストリ「なんだったんだよ」
触れた右手を見ながら、所在なさげにぶらぶらと揺らす。
その時、教室の入り口に人の気配がした。
中条あやみ「変態!」
廊下からは夕日が差し込み中条は赤く照らされていた。よくは見えなかったが、その顔は確かに笑っていたような気がした。
『こんな青春送りたかったなぁ』