夜、家の窓を開けてぼーっとしていると何処からともなくあの音が聴こえる。
「タータタタンタンッ!!タータタタンタンッ!!」
田舎ではよく聞くやつ、そう、バイクのコール音。単車って言った方がいいかな?
この時期ぐらいから夏ぐらいまでは、夜になると必ず聞こえる。もはや風物詩とも言える。確かにこの季節、夜にバイクを走らせるのはとても気持ちがいい。つい、アクセルワイヤーを緩めた軽めのスロットルをぶん回したくなる気持ちは分かる。遠くから聞いている僕でさえ、夜に染み込んでいくようなそのコール音に、ジッと耳を澄ませたりする。
多分迷惑に思っている人が大半だろうけど。だし、迷惑なのは間違いないけど。
毎年毎年必ず聴こえる。
きっとコールしている子は18〜20ぐらいの子だと思う。それ以上になると大人になってやめていくだろうし、引っ越したりする。でも、毎年必ず聴こえてくる。きっとそれは、先輩たちに憧れてコールをはじめる下の子たちがいるからだろう。そしてまた、下の子に引き継がれ、その繰り返し。
「変わりはいるもの」
僕の中の綾波レイがそう言う。
僕はこのコール音を聴くたびに思う、変わりなんていくらでもいるし、必ず空いた穴は埋まるんだと。誰かが立ち上がって空いた椅子は誰かが座って、その椅子にはまた誰かが座る。
何をしていようと、何もしていなかろうと、全くもってこの世界からは個人ってのは関係のないものなのかもしれないな、なんて思ったりする。ちょっと気が楽になる。僕だけにしかできないことなんてないのだから。僕がいなくても世界は全く意に介さないし、逆にいうと僕がいても全くよいのだから。逆説ばっかり言ってるな、でもそんな気がする。
綾波レイもきっとこんな気持ちだったんじゃないかな。だから簡単に命を投げ打つ事ができるし、意外とシンジに積極的だったりする。
「だって「変わりはいるもの」私がシンジくんを好きになってもいいじゃない?」
ってこと。
だからあなたは何をしてもいいし、何をしなくてもいい、僕もそうするし、みんなんも実はそうしてるんじゃない?あまり他人に迷惑を掛けてはいけないけどさ。まぁ、コール音ぐらいはいいんじゃない?