よくタンクトップを着ている君と暮らして何年目になるだろうか。何度か違う家を体験したが、今回はまぁまぁおもしろい。君がよく見えるから飽きは来ないよ。前の前の前の家は最悪だったね。どこかに出かけるつもりの君が廊下にチラリと見えるぐらいで、それ以外は「ダイソン」って名乗る変な形のやつと睨めっこの時間だ。俺は奴があまり好きじゃないんだ、なんだか鼻につく奴で、お高く止まっていやがる。おまけに偶に大声で叫び出すんだ。もっとも君は奴を気に入っているようだがね。
それをいうと君は最近「電子レンジ」って奴を大層気に入っているそうじゃないか。実際にはみたことはないけど、「洗濯機」が「電子レンジ」を大層大事に扱っている君を見たと言っているのを「炊飯器」が見たと言っていたよ。ふん、別にやきもちなんかを焼いている訳ではないから勘違いしないでくれよ。俺は俺の役割をちゃんと弁えているタチなんだから、他人のことをとやかく言うのはナンセンスってことはわかっているつもりさ。まぁ偶にはいいだろ?
「炊飯器」は新人だがわりにいい奴だよ。素直な奴で、なんでも出来事を伝えてくれるし、かといって余計なことは喋らない。俺とおんなじ暖色系で話も合うんだ。ただ「家電」と「家具」の違いってのは見逃せないね。あくまで俺は「家具」だ。よく知らないが「電気」ってのが無いと動かない奴らとは違う。俺には俺の役割があるんだ。
なんだって?ずっとじっとしていて面白いのかだって?
なんてことないさ、俺は俺が「箱」であることを発見したんだ。それは結構幸せなことだぜ。俺には俺の役割があるんだから。君はどうなんだい?どうやら君には役割ってものがないように見えるが、それは大層不自然に見えるぜ。どこにも挟まっていない奴は浮いて見えるだろう?それは家具でも一緒さ。真っ白い部屋にただ一つ俺がいたらそう見えるだろう。ただ、俺には物を入れるって言う役割があることは変わらない。ん?なんだかややこしいことになってきたな。上手いこと比喩を使うのは俺の役割じゃないんだ。つまりだ、俺には俺の役割があるってことさ。
ところで俺の中に入っている税金の払込用紙はどうするんだい?ついでにいうと、俺の中にあるコンドームはいつ使うんだい?余計なお世話だって?それもそうだな、俺の中のものを教えるのは俺の役割じゃないからな。
あと、俺の上の本をどうにかしてくれないか?重くって仕方がない。これじゃいつかぶっ壊れてしまうぜ。せっかく君がシールやらなんやらを貼ってカッコよくしてくれたんだろう、もう少し大事に扱ってもバチは当たらないと思うがね。それは君の役割だぜ。
まぁ歪みあっても仕方ないじゃないか。「同居人」と「同居物」同士だ。仲良くやっていこうじゃないか。
「隣人を愛せよ ーマタイ7章12節ー」
君が僕の中に入れている本の内容だぜ。もっとも聖書とコンドームを同じ「箱」に入れるのはどうかと思うがね。こう…倫理的に?いや、情緒的に。